人生運用システム(Life OS)要件定義書¶
- バージョン: v0.3
- ステータス: ドラフト
- 関連文書:
docs/happiness-framework.md(幸福の定義・接近プロセス・汎用能力 整理書)docs/continuation-system.md(継続機構設計書 — 本要件を記憶ゼロで回すための外骨格。フェーズ 0 の実装手順を含む)- この文書の役割: 「自分の人生を記録し、より良くしていく」ための仕組みを作る前に、何のために・何を・どういう制約の下で 作るのかを言語化する。実装(アプリ、ノート術、習慣設計など)はこの文書の合意後に検討する。
0. この文書の読み方¶
この要件定義は、ソフトウェアだけを対象にしていない。対象は「自分という人間の運用系」全体であり、その一部としてツール(記録アプリ等)が位置づけられる可能性がある、という順序で書かれている。
- 上位要件(L1): 生き方・価値観レベルの要求。変わりにくいもの。
- 運用要件(L2): 日々の自己運用(記録・回復・成長)の仕組みへの要求。
- ツール要件(L3): 将来ツールを作る/選ぶ場合に満たすべき要求。L2 から導出される。
各要件には ID を振り、元になった本人の言葉(原文要求)から追跡できるようにしている。
1. 背景と目的¶
1.1 背景(本人の言葉の整理)¶
| ID | 原文要求(要約) |
|---|---|
| RAW-01 | 自分の人生を記録し、より良くしていきたい |
| RAW-02 | 自分の特性(ASD・ADHD らしきもの、自己効力感の低さ、仕事の都合など)により、完璧な操縦は難しい |
| RAW-03 | 操縦者と被操縦者の両面を持ちたい |
| RAW-04 | 被操縦者の HP を、操縦者の MP を高めたい |
| RAW-05 | 音楽・英語・仕事(コンサルティング的スキル)・美容・ファッション、すべて伸ばしたい |
| RAW-06 | エネルギーが必要 |
| RAW-07 | 誰かと関わりながら、一生懸命に物を作っていく経験が必要 |
| RAW-08 | 被操縦者がうまく動いていくための環境を作らないといけない |
| RAW-09 | 何から考え、何を幸せとして、どうやって生きていくのがいいのか知りたい |
1.2 目的¶
本システム(=自分の運用系)の目的を次のように定義する。
完璧に操縦することではなく、「壊れにくく、壊れても戻ってこられる運用」を成立させ、その上でエネルギーと成長を積み上げること。
RAW-02 が示す通り、完璧な操縦は前提にできない。したがって本要件定義全体を貫く最重要方針は「完璧性ではなく回復可能性(レジリエンス)を設計目標にする」である。
2. コンセプトモデル:操縦者と被操縦者¶
RAW-03 / RAW-04 の比喩を、要件を書ける程度に定義する。
2.1 二つの側面¶
| 側面 | 役割 | 主なリソース | 弱っているときの症状 |
|---|---|---|---|
| 操縦者(Pilot) | 観察する・決める・計画する・振り返る・環境を設計する | MP(判断力・メタ認知の余力) | 決められない、先延ばし、自己批判のループ、過剰な計画倒れ |
| 被操縦者(Vehicle) | 実際に動く・作る・練習する・人と関わる | HP(体力・気力・情緒の安定) | 起き上がれない、着手できない、感覚過負荷、燃え尽き |
2.2 HP / MP の作業定義¶
- HP(被操縦者の体力): 睡眠・食事・運動・感覚負荷・情緒によって増減する「行動の元手」。HP が無い日は、どんな良い計画も実行されない。
- MP(操縦者の魔力): 意思決定・自己観察・優先順位づけに使える認知資源。MP は有限で、些細な選択(何を着るか、何からやるか)でも消費される。
2.3 モデルから導かれる基本原理¶
- HP が MP に先行する。 疲弊した被操縦者に高度な操縦は効かない。回復 > 計画。
- MP は節約できる。 決めごとを事前に構造化(ルーチン化・テンプレ化・環境固定)すれば、当日の MP 消費を減らせる。これが RAW-08「環境を作る」の意味である。
- 操縦者は被操縦者を責めない。 自己効力感の低さ(RAW-02)を悪化させる最大の要因は、失敗時の自己批判である。操縦者の仕事は査定ではなく整備である。
3. 前提条件・制約(Constraints)¶
設計時に「無いことにしてはいけない」条件。
| ID | 制約 | 設計への含意 |
|---|---|---|
| CON-01 | ASD 傾向(と思われるもの): 感覚過負荷、切り替えコスト、曖昧さへの弱さ | 手順・基準は明文化する。予定変更や曖昧なタスクは HP を削る前提で見積もる |
| CON-02 | ADHD 傾向(と思われるもの): 着手困難、過集中、忘却、興味の変動 | 「継続日数」を成果指標にしない。中断・再開が無傷でできる構造にする。リマインドと外部記憶を前提にする |
| CON-03 | 自己効力感の低さ | 成功体験は「小さく・すぐ・可視化」で供給する。失敗の記録は事実のみ、評価語を禁止する |
| CON-04 | 仕事の都合 | 平日の HP/MP 残量は日によって大きく変動する。「毎日同じ量」を要求する仕組みは成立しない |
| CON-05 | 未診断・自己認識ベースであること | 特性の記述は仮説として扱い、記録によって検証・更新する。必要に応じて専門家(医療・カウンセリング)への相談を選択肢に残す |
4. 幸せの定義(作業仮説)¶
RAW-09「何を幸せとして生きるか」に対する、現時点の仮説。これは記録によって検証・改訂される対象であり、確定した答えではない。詳細な理論的背景・一般的定義との乖離分析・改訂根拠は docs/happiness-framework.md を参照。
幸福ポートフォリオ v0.2(一般的幸福理論との乖離分析 GAP-1〜5 を反映した改訂版):
- 成長実感(W1): 音楽・英語・仕事スキル・美容・ファッションが「先月より進んでいる」と感じられること。
- 協働的創作(W2): 誰かと関わりながら、一生懸命に物を作る経験があること(RAW-07)。これは孤独な自己改善では満たされない種類の欲求である。
- エネルギー(W3): 「やりたい」が自然に湧く状態。ただし v0.2 で役割を目的から計器へ変更した。エネルギーは直接追求せず、HP/MP として監視し、打ち手は自律性・有能感・関係性の充足に置く(GAP-4)。
- 自己との和解(W4): 被操縦者を責めずに運用できている、という感覚。自己効力感の回復。
- 味わい(W5) (v0.2 で追加): 快・美・感謝をただ味わうヘドニア成分。成長も創作もない日に幸福が成立するための要素(GAP-1)。
- ただ一緒にいる関係(W6) (v0.2 で追加): 成果物を伴わない少量の関係性。長期的幸福の最大予測因子を枯らさないための最小限の維持(GAP-2)。拡大目標は設定しない。
仮説(H1): この 4 要素のうち、3(エネルギー)と 4(自己との和解)が土台であり、それが満ちて初めて 1(成長)と 2(協働的創作)が回り始める。
仮説(H2): 逆方向の経路もある。小さな協働的創作(2)は、エネルギー(3)と自己効力感(4)を外から注入する数少ない手段である。したがって「土台が完成してから挑戦する」のではなく、小さな挑戦を土台づくりと並行させる。
5. 要件¶
5.1 上位要件(L1: 生き方レベル)¶
| ID | 要件 | 根拠 |
|---|---|---|
| L1-01 | 人生の運用は、完璧な遂行ではなく「中断からの復帰しやすさ」を最適化の対象とすること | RAW-02 |
| L1-02 | 操縦者(計画・観察)と被操縦者(実行・回復)の両方に、明示的にリソースを配分すること。どちらかだけの強化に偏らない | RAW-03, RAW-04 |
| L1-03 | 成長領域(音楽・英語・仕事・美容・ファッション)は「全部やめない」ことを優先し、同時に全力で進めることは要求しない | RAW-05, CON-04 |
| L1-04 | 協働的な創作の機会(人と関わって物を作る経験)を、人生の中に定常的に確保すること | RAW-07 |
| L1-05 | 幸せの定義(第 4 章)は固定せず、記録に基づいて定期的に見直すこと。見直しはメタプロセス(docs/happiness-framework.md 第 III 部、M-01〜07)に従う |
RAW-09 |
| L1-06 | 個別領域のスキルと並行して、領域をまたいで持ち越せる汎用能力(取り組み方のレイヤ、G1〜G8)の向上を明示的な目的とすること。主活動の入れ替えは汎用能力の反復練習として肯定的に位置づける | docs/happiness-framework.md 第 IV 部 |
5.2 運用要件(L2: 日々の自己運用の仕組み)¶
記録(Logging)¶
| ID | 要件 | 根拠 |
|---|---|---|
| L2-01 | 1 日の記録は 最小 30 秒以内 で完了できる形式を持つこと(例: HP/MP を 5 段階で選ぶだけ)。書きたい日は自由に書き足せる | CON-02, CON-03 |
| L2-02 | 記録項目の必須セットは「HP(体力・気力)」「MP(判断余力)」の 2 つのみとすること。それ以外(やったこと、気づき、感情)はすべて任意 | RAW-04 |
| L2-03 | 記録が 途切れても一切のペナルティ表現をしない こと。「◯日連続」「途切れました」のような連続性の演出を用いない | CON-02, CON-03 |
| L2-04 | 空白期間の後、1 タップ/1 行で再開できる こと。再開時に空白期間の説明・言い訳を要求しない | L1-01 |
回復(HP 管理)¶
| ID | 要件 | 根拠 |
|---|---|---|
| L2-05 | HP が低い日の「最低限モード」(これだけやれば OK という縮退運転の定義)を事前に決めておくこと | CON-01, CON-04 |
| L2-06 | HP を回復させる行動(睡眠・食事・入浴・感覚刺激の遮断など)のリストを操縦者が平時に整備し、HP 低下時に「選ぶだけ」で使えるようにすること | 2.3 原理 2 |
| L2-07 | 美容は「見た目の成果」だけでなく「HP 回復手段(自己ケア)」としても位置づけ、疲れている日ほど省略ではなく簡易版を実行できるようにすること | RAW-05, RAW-06 |
操縦(MP 管理)¶
| ID | 要件 | 根拠 |
|---|---|---|
| L2-08 | 日中の意思決定回数を減らす仕組み(服のパターン化、朝のルーチン固定、翌日の最初のタスクを前夜に 1 つだけ決める等)を持つこと | 2.3 原理 2 |
| L2-09 | 振り返り(操縦者の仕事)は週 1 回・15 分以内を上限とし、内容は「事実の確認 → 来週の環境調整 1 つ」に限定すること。反省会・自己批判の場にしない | CON-03 |
| L2-10 | 計画は「やることリスト」ではなく「環境の調整」として記述すること(例: 「英語を毎日 30 分やる」ではなく「通勤の最初の 10 分はポッドキャストが自動再生される状態にする」) | RAW-08 |
成長(ポートフォリオ運用)¶
| ID | 要件 | 根拠 |
|---|---|---|
| L2-11 | 成長領域は「主活動 1 つ + 維持活動その他」のローテーション制とすること。主活動は 1〜3 ヶ月単位で入れ替えてよく、入れ替えは失敗ではなく運用と定義する | RAW-05, CON-02 |
| L2-12 | 各領域に「維持の最小単位」(これをやっていれば止まっていない、と言える最小の行動)を定義すること。例: 英語 = 週 1 回何かを英語で聞く、音楽 = 週 1 回楽器に触る | L1-03 |
| L2-13 | 進捗の可視化は「積み上げ型」(累計時間・作った物のリスト)とし、「未達の可視化」(目標との差分の赤字表示など)を用いないこと | CON-03 |
協働・エネルギー(外部との接続)¶
| ID | 要件 | 根拠 |
|---|---|---|
| L2-14 | 「誰かと物を作る」機会を、少なくとも 1 つ、常に仕掛かり状態で持つこと。規模は問わない(バンド、ハッカソン、勉強会での共同発表、仕事内のサイドプロジェクト等) | RAW-07 |
| L2-15 | 協働の機会は HP を消費する側面もあるため(CON-01)、「関わる人数・頻度・逃げ道(休める口実)」を事前に設計してから参加すること | CON-01 |
| L2-16 | エネルギーが湧いた瞬間(過集中の波)を「悪」とせず、乗ってよい波と乗ってはいけない波(睡眠を削る等)の判断基準を事前に決めておくこと | CON-02, RAW-06 |
5.3 ツール要件(L3: 将来、記録ツールを作る/選ぶ場合)¶
この節は現時点では実装しない。 L2 が紙のノートや既存アプリで回るなら、ツール開発は不要である。作る場合の受け入れ基準として残す。
| ID | 要件 |
|---|---|
| L3-01 | 起動から記録完了まで 30 秒以内(L2-01 の実装) |
| L3-02 | HP/MP の 2 項目入力を最短経路に置き、他は折りたたむ |
| L3-03 | ストリーク(連続記録日数)機能を実装しない。空白期間は詰めて表示するか、無言でスキップする |
| L3-04 | 週次振り返り用に「今週の事実」を自動集計し、操縦者の MP を使わせない |
| L3-05 | 通知は「責める通知」(まだ記録していません等)を禁止し、送るなら「1 タップで今日を終えられる」入口のみとする |
| L3-06 | データは本人が所有し、エクスポート可能であること(人生の記録を特定サービスに人質に取らせない) |
6. 成功基準(Acceptance Criteria)¶
「うまくいっている」を測る基準。数値目標(毎日◯◯する)は CON-02〜04 により不採用とし、傾向と復帰で測る。
| ID | 基準 | 測り方 |
|---|---|---|
| AC-01 | 記録が「途切れても戻ってくる」状態になっている | 空白期間の後に再開した回数(再開できたこと自体を成功と数える) |
| AC-02 | HP/MP の平均が緩やかに上向く、または安定する | 月次で HP/MP 記録の分布を見る(週次ではノイズが大きすぎる) |
| AC-03 | 全成長領域で「維持の最小単位」(L2-12)が月単位で途絶えていない。維持そのものを成功と数え、進捗が無いことを失敗として扱わない(GAP-5) | 月次振り返りで確認 |
| AC-04 | 協働的創作が常に 1 つ以上仕掛かっている | 月次振り返りで確認 |
| AC-05 | 自己批判的な言葉が記録・振り返りの中で減っていく | 週次振り返りの記述を見返す(定性) |
7. 何から考えるか(優先順位)¶
RAW-09「何から考えればいいのか」への回答。以下の順で着手することを推奨する。
- フェーズ 0 — 観測(まずここだけ): HP/MP の 2 項目だけを、手元にある一番簡単な手段(メモアプリ・紙)で記録し始める。目的は改善ではなく、自分の波を知ること。完璧に続ける必要はない(L2-03/04)。具体的なセットアップ手順(30 分・1 回だけ)は
docs/continuation-system.md§9 に完成品がある。 - フェーズ 1 — 縮退運転の定義: 「HP が低い日の最低限モード」(L2-05)と「MP を節約する固定ルーチン」(L2-08)を 1 つずつ決める。
- フェーズ 2 — 成長ポートフォリオの初期配置: 主活動 1 つを選ぶ(L2-11)。選ぶ基準は「今いちばんエネルギーが湧くもの」でよい。他の領域は維持の最小単位(L2-12)だけ定義する。
- フェーズ 3 — 協働の仕掛かりを 1 つ作る: 小さくてよいので、人と物を作る場に 1 つ入る(L2-14/15)。
- フェーズ 4 — 見直し: 1〜2 ヶ月の記録をもとに、第 4 章の幸せの仮説(H1/H2)と各要件を改訂する。必要ならこの時点で初めてツール(L3)を検討する。
8. 未決事項(Open Questions)¶
次回の改訂で決める、または記録が溜まってから判断する事項。
- OQ-01: HP/MP の 5 段階の目安(各レベルの具体的な状態記述)をどう定義するか。
- OQ-02: 最初の「主活動」をどの領域にするか(音楽/英語/仕事スキル/美容/ファッション)。
- OQ-03: 協働的創作の最初の候補は何か(既存のコミュニティに入るか、自分で小さく始めるか)。
- OQ-04: 特性(ASD/ADHD らしきもの)について、専門家の評価を受けるかどうか。受ける場合、それはこの運用系にどう反映されるか。
- OQ-05: 週次振り返り(L2-09)を確実に発生させるトリガーをどこに置くか(曜日・場所・既存習慣への相乗り等)。
- OQ-06: 「仕事の都合」(CON-04)の具体的なパターン(繁忙期・不規則性)を記録からどう抽出するか。
- OQ-07: 意味・目的(Meaning)の定義。急いで決めず、四半期レビューごとの「意味があったと感じた瞬間はいつか」の蓄積から帰納する(
docs/happiness-framework.mdM-06 / GAP-3)。
改訂履歴¶
| 版 | 内容 |
|---|---|
| v0.1 | 初版。本人の言葉(RAW-01〜09)から要件を抽出し、たたき台として作成 |
| v0.2 | docs/happiness-framework.md の乖離分析を反映。幸福の構成要素を 4→6(W1〜W6)に改訂、エネルギーを目的から計器へ変更、汎用能力の上位要件 L1-06 を追加、AC-03 に「維持も成功」を明記、OQ-07 を追加 |
| v0.3 | docs/continuation-system.md(継続機構設計書)を追加し、本要件群を本人の記憶に依存せず運用する外骨格(通知 3 本 + ランブックカード 5 枚)とフェーズ 0 の具体的セットアップ手順を定義 |